競走馬のオーナーになりたい。
競馬ファンなら誰しもがそんな夢を抱いたことがあるのではないでしょうか。
しかし、個人で競走馬のオーナー(以下:馬主)になるには、金銭的に高いハードルをクリアする必要があり、誰でもなれるというものではなく非常に難しいものです。
そこで、高所得者でなくても馬主を疑似体験するために生まれたのが「一口馬主」というもの。
最近は一口馬主クラブの馬が多く活躍していて、耳にする機会も多いと思います。
そこで今回は、「一口馬主とは?」
一口馬主について詳しくご紹介します。
【夢の馬主デビュー】|一口馬主とは?
一口馬主とは「クラブ」と呼ばれる法人(以下:クラブ法人)が、1頭の馬を小口に分割して出資を募集する制度です。
募集馬はクラブ法人により40口から2000口ほどの間の小口に分割されて、出資が募られます。
例えば、総額1600万円の募集馬の場合、40口募集のクラブ法人なら1口40万円、400口募集のクラブ法人なら1口4万円が1口の出資額になります。
出資後は、えさ代や委託代などの維持費を口数に応じて毎月負担するわかりに、レースで獲得した賞金のおよそ60~70%程度を、配当として口数に応じて受け取ることができます。
投資に近いようなものですが、競馬の世界をより楽しむという趣味要素が強いため、一般的な投資とは大きく異なるでしょう。
【夢の馬主デビュー】|一口馬主の規模は?
現在は、大小あわせて約22のクラブが運営を行っており、クラブの会員数は全国で約5万人ともいわれています。
クラブ所属の現役馬は1000頭以上、レースでもクラブの馬の活躍が目立つなど、競馬界で一口馬主クラブは大きな存在感を示しています。
現在、G1や重賞戦線で活躍しているエフフォーリアやレイパパレなども一口馬主クラブの現役馬です。
少し前までは、収入に余裕のある人向けの少し敷居の高い世界という面が強かった一口馬主ですが、最近では口数を大口分割して一口あたりの金額を下げるクラブが増えたことにより、敷居がグッと下がり比較的 低予算で始められるようになっています。
また、インターネットやSNSの普及によって情報サービスの向上や、ゲームなどから競馬界に入る若い世代もスムーズに参加することが増えてきました。
やはり、それだけ敷居が低くなってきているという面と、本来であれば1人が所有するのが前提の競走馬を、不特定多数の人間でお金を出し合ってみんなで成長を見守りながらSNSなどで交流するというのも、現代の流れにもマッチしているように思います。
【夢の馬主デビュー】|個人馬主との違いは?
JRAには、出資者を代表するという形でクラブ法人が馬主として登録されます。
そのため一口馬主クラブの会員は正式な馬主にはならず、個人馬主に比べると制約を受ける場面がいくつか出てきます。
以下が大まかな違いです。
その他、ローテーションや騎手の起用など、馬に関する方針決定はクラブと調教師の間で行われます。
一口馬主は、クラブと調教師に全権を委任しているというのが大きな特徴といえます。
制約もありますが、IT社会の現代では近況報告の写真や動画が定期的にクラブ専用サイトや動画サイトなどで提供されたり、レース後には多くのクラブが当日中に騎手や調教師のコメントを速報することがあります。
なので、個人馬主に勝るとも劣らない情報量で常に愛馬の最新状況を把握できるようになっています。
また正式に金融庁の管轄になったことで、各クラブの運営がオープンでクリーンになったことも、昔と比べると大きな変化としてあげられます。
費やしている金額にもよるかもしれませんが、個人馬主と一口馬主が背負っているリスクの差などを考えると、一口馬主を手軽に楽しめる環境が現在では十分に整ってきているのではないでしょうか。
【夢の馬主デビュー】|一口馬主の魅力とは?
商品ファンドの形をとっているとはいえ、一般的な投資とは違う印象の一口馬主。
どのような魅力が詰まっているのか、ご紹介します。
競走馬人生に関われる
一口馬主は、馬が0歳から2歳のときに出資するようになります。
1歳の夏頃から秋頃に出資するタイミングが多く訪れるかと思います。
一口馬主は、出資したときからその馬の生活費などを会費とは別に支払うようになります。
1歳の馬に出資した場合、デビューするまでに約1年近く馬によってはそれ以上の期間ができます。
0歳の馬に出資した場合は、デビューまでに最低でも丸2年はかかります。
「デビュー」を首を長くして待つのですが、この「待ち」の期間が最も楽しいという方もいらっしゃるほど、競走馬にとって重要な期間といわれています。
出資したときは、まだ母親と一緒にいてコロコロと可愛かった仔馬が、この待ちの期間でどんどん大人の体に成長していく姿がクラブから提供される動画や写真で確認できます。
また、馴致(じゅんち/騎乗馴致。乗り慣らすこと。)や調教が開始されると、その馬の性格が見えてきたり、育成の段階で起こるアクシデントを乗り越えていく姿を見ることで、自分の子供の成長を見ているかのように愛着が湧いてきます。
馬も一頭一頭、見た目も違えば性格も違い、それぞれに個性があります。
成長期には身体面で課題も出てくるため、デビュー前からそれぞれの馬にドラマがあるのです。
そんな愛馬が成長していく姿を見ることは、子供の成長を見守る親の心境と似ているかもしれません。
また、愛馬が頑張っている姿を見ることで逆に元気を貰ったり、デビューに向けて準備が進められていると実感できることでしょう!
名付け親になれるチャンス
一口馬主クラブは、競走馬の馬名を会員からの募集で決めるところが多いです。
運が良ければ、愛馬の名付け親になるチャンスもあります!
自分の考えた名前が競馬新聞や雑誌やSNSのニュース記事に載ったり、レースで実況アナウンサーに呼ばれたりすることは、競馬ファンとしては表しがたい喜びではないでしょうか!
また現役時代だけではなく、引退後は牡馬であれば種牡馬として、牝馬であれば繁殖として、自分の考えた名前が血統表に残り続ける可能性だって出てきます!
運動会を見ている親の心境
デビュー後のレースでの一喜一憂については、「子供の運動会を見ている親の心境」とよく形容されます。
「まずは何よりも無事に。できれば少しでもいい成績で。願わくば1番に帰ってきてほしい!」という期待や不安など、さまざまな感情が入り混じる瞬間は、日常生活ではなかなか体験できない非日常的な世界です。
レースに出走予定の週は、月曜日からソワソワして出走確定から枠順が決まった木曜日以降は本番までワクワクしながら週末を待ち、愛馬の馬券を購入して、出走直前まではドキドキして祈る気持ちでいっぱいになり、そしてレーススタートで大興奮!
勝ち鞍を上げ、運が良ければウイナーズサークルで記念撮影ができるかもしれない!
そんなワクワクとドキドキが詰まった1週間になります。
デビュー前から愛馬の近況を見てきた一口馬主としては、その馬と関係者のデビューまでの道のりを思い、命がけでレースに挑む愛馬やジョッキーの真剣勝負の世界に少しでも関わっているのだと思うと、感極まるものがあります。
普段 何気なく見ていたレースでも、そこに出走するだけでもどれだけ大変なことなのか、クラシックレースに出走する馬がどれだけ狭き門を潜り抜けてきているのか、といったことも実感できるでしょう。
一口馬主になったからこそ見えてくるもの、感じるものがあると思います。
今までは娯楽として見ていた競馬を、少し違った目線で見るようになってくるかもしれません。
日々の成長を感じれる
レースへの出走だけでなく、クラブからの定期レポートも日常に刺激を与えてくれる存在になります。
レポートの配信頻度はクラブによりますが、入厩前は月1~2回程度、入厩後は毎週というパターンが多く写真や動画や文章で愛馬の近況を教えてくれます。
放牧中でもレポートを配信してくれるクラブもありますよ!
アスリートである競走馬は、常に何かしらの目標を持って日々 稽古しています。
育成中の馬はデビューを目標に、現役馬は次走を、故障している馬は完治を目標として毎日を頑張っているのです。
こうした、一つの目標に向かって試行錯誤しながら、関係者一丸で努力する現場を映像や文章などを通して見ることができるだけでなく、一口馬主として自分自身も関わっています。
育成や調教が進むにつれて、さまざまなことが起こりえます。
1頭の競走馬について、マスコミを通してネガティブな情報が表に出ることは少ないですが、オーナーサイドである一口馬主には、クラブを通して良いことも悪いこともレポートされます。
こうしたレポートにより、牧場関係者や厩舎関係者の試行錯誤や努力、その馬に関わる人々の思いが伝わってきます。
愛馬が、新馬戦もしくは未勝利戦を勝ち上がり活躍してくれると、5年以上の付き合いになることがあります。
数年に渡ってレポートを受け取っていると、愛馬が自分の生活の一部に加わります。
どの馬も人間の人生と同じように、山あり谷ありの馬生を送っています。
そして日々 頑張っている姿を見て「愛馬もあんなに頑張っているんだから、自分も頑張ろう!」と逆にパワーをもらうこともあるかもしれません。
そんな様々なドラマを知ったうえで愛馬がレースに出走している姿を見た時、さらには勝ち鞍を上げた日には、何ものにも代えがたい大きな感動が待っています!
【夢の馬主デビュー】|一口馬主の位置づけって?
ここでは、一口馬主のシステムを詳しくご紹介していきます。
少し法的な話にもなるかと思うので、ややこしいかもしれませんがサラッと見ていただけると嬉しいです。
一口馬主は「競走馬ファンド」といった形態です。
JRAでは、馬主資格を持たない人間が共同馬主となる行為を認めていません。
いわゆる名義貸しという行為ですね。
一口馬主は、商品ファンドという形態で、法的には金融商品として扱われています。
金融庁の監督のもとで、健全な運営が行われる仕組みが取られているのです。
2つの法人で成り立つ
一口馬主クラブは「愛馬会法人」と「クラブ法人」の2つの法人によって成り立っています。
例えば、過去リスグラシューやエピファネイアという名馬が所属していたキャロットクラブ。
現役馬では、レイパパレや2021年皐月賞馬のエフフォーリアもキャロットの馬です。
このキャロットクラブは、愛馬会法人の「株式会社キャロットクラブ」とクラブ法人の「有限会社キャロットファーム」という2つの法人で成り立っています。
名義は違いますが、同じ企業グループに属する兄弟会社のイメージです。
この2つの法人のうち、実際に馬を購入してクラブ会員から出資を募るのは、愛馬会法人です。
このとき、愛馬会法人と会員が結ぶ出資契約を「匿名組合契約」と呼びます。
愛馬会法人=匿名組合ということになります。
匿名組合である愛馬会法人は、JRAの馬主資格を持つことができず所有している馬をレースに出すことができません。
そこで、愛馬会法人はJRAの馬主資格を持つクラブ法人に、競走馬を現物出資するのです。
そしてクラブ法人は、馬主として出資馬をJRAに競走馬登録し、レースに出走させます。
出資馬がレースで獲得した賞金は、まずクラブ法人から愛馬会法人に分配され、愛馬会法人からクラブ会員へと分配される、というのが一口馬主クラブの運営の流れです。
法律の面から見ると、一口馬主クラブ(愛馬会法人とクラブ法人)は、金融商品取引法の規制を受ける「第二種金融商品取引業者」です。
国の審査を受け、それを通過した業者ということになります。
一口馬主の観点からいえば、安心して出資できる環境ではないでしょうか。
【夢の馬主デビュー】|JRAと一口馬主の関係
JRAの馬主の種類は
→個人を馬主として登録するもの。
個人がJRAの審査基準を満たす必要がある。
個人で競走馬を所有する形態の馬主。
→競馬事業を目的とする法人を馬主登録するもの。
代表者が個人馬主としてのJRA審査基準を満たす必要があるとともに
法人の財務内容等も審査の対象となる。
株式会社・有限会社として競走馬を所有する形態の馬主。
→10名以下の特定少数で組織され、組合員全員が収入など
JRAの審査基準を満たす必要がある。
また、組合の掛け持ちはできない。
複数人が団体を結成し、競走馬を所有する形態の馬主。
上記の3つです。
一口馬主クラブはクラブ法人がJRAに馬主登録されているため、②の「法人馬主」という位置づけになります。
クラブ会員とJRAには直接的な関係はありません。
不特定多数の人間から出資を募るという意味では、法人馬主の中でも特殊な位置づけの存在となっています。
そのため、JRAと各クラブの連絡会が定期的に開催され、クリーンな体質を維持できる体制が作られているそうです。
上記の他に、共有馬主やオーナーズといわれる会員組織もあります。
これは、大手生産牧場が主催する個人馬主を対象にしたものです。
一口だいたい10分の1程度に分割されるため一口の金額は大きくなりますが、1頭の競走馬を均等分割して所有するという形態という点で、一口馬主とよく似ています。
ただしオーナーズの場合は、実際の個人馬主の資格を持つ人に参加資格を限定しているため、一口馬主とは根本的に異なります。
オーナーズは、ファンドではなく あくまで個人馬主間の任意契約という扱いとなるため、法的にも一般の契約同様、民法となります。
【夢の馬主デビュー】|さいごに
法的な位置づけやJRAとの関係性などを考えると複雑と思われるかもしれませんが、実際に一口馬主を楽しむにあたって2つの法人で成り立っていることや、金融庁とのかかわりを意識する場面はほとんどないと思います。
実際、一口馬主をやっている私も意識する場面に出くわしません。
一口馬主の楽しみ方は人それぞれ。
友達や知人と同じクラブに入会していても、入会した時期や出資している馬は会員それぞれ違います。
馬一頭一頭にそれぞれのドラマがあるように、一口馬主の数だけドラマがあります。
一口馬主は「競馬」というフィールドを舞台に、投資というそれなりのお金と欲を交えながら、自分と愛馬のドラマを年単位という長い時間をかけてじっくりと作り上げていく、大人の趣味とえいるかもしれません。
自分なりの楽しみ方で、長く楽しめる趣味になりますよう。
少しでも興味のある方は、一口馬主を始めてみませんか?
素晴らしいドラマが待ち受けているかもしれません!
ここまで読んで頂きありがとうございました。